長く続く登りも下りも、幾度となく繰り返すアップダウンも、疲れるし苦しいし、何時歩いても嬉しいものではありません。となると、山歩きは嫌な事の連続ということになってしまいますが、山の空気や景色の素晴らしさや木々や草花の姿に接すると、嫌なものでも苦にならなくなるから不思議です。
しかし楽に歩けたら、それに越したことはありません。そんな歩きが少しでもできたらと、歩き方について私なりに少し書いてみました。国内も海外も山の歩き方に違いはありません。
@登りでは息を切らさない
ほどほどの年齢になると、息が切れると回復に時間がかかり、疲労困憊、山を楽しむどころではなくなります。息が切れそうと思ったらオーバー・ペースの証拠です。自分のペースを守ることが第一です。
息を切らしてしまうと長い休憩をとるハメになり、体力は消耗するし、時間を大きくロスしてしまいます。先ずは息を切らさないように歩くことです。特に歩き始めの元気な時には、ついつい早く歩いてしまい、気がつくと息が上がっていて後々苦しい歩きになることがあります。
ザックを背負った上半身を前後や左右になるべく揺らさないようにして、同じペースで登ると良いと思います。
A下りは急がない
下りは足に負担がかかります。関節の潤滑剤が枯れかかった私どもの年齢では、下りでドンドンと突っ走っては致命傷になりかねません。スリップしたり、つまずいて転んで怪我をしやすいのも下りです。下りではできるだけ普通のペースで歩くように心がけ、よそ見をせずに、景色を見るときには立ち止って眺めるようにしたいものです。
Bアップ・ダウンの繰り返しがある時は
@とAの歩き方をすれば良いわけですが、特に意識したいのは、登りから下りになっても、スピードを速めず、できるだけ登りの速さと変わらない気分で歩くことです。そうすると、下りの時に登りで乱れた呼吸が整えられて疲労も回復します。下りでは決して早く歩かず、速さをセーブして歩くと、次の登りになった時でもスムースに歩くことができ、長丁場のアップ・ダウンがあっても案外平気で歩けます。「下りは次の登りに備えるための歩き」、と心がけると良いと思います。
アルプスでヨーロッパ人のガイド付のトレッキングに加わって歩いたことがありますが、下りでは予想以上にゆっくりと歩くので、登りの歩きが早くてもついて行くことができました。下りの歩き方がいかに重要かをこの時始めて体感しました。
最も、ヨーロッパの人の歩きを見てきた感想としては、日本人に較べて登りは早いが下りは遅いのが一般的で、下りは不得手なのかもしれません。
C団体やグループで歩く時は
歩く早さや体力はそれぞれが違うので、団体で歩く時は注意が要ります。一般的な団体での歩き方は、リーダーなりサブリーダーがトップに立ち、一番弱い人が2番目で、トップは2番目の息づかいを聞き、全体を把握しながら歩きます。ラストからトップの間は声が届く範囲以上には離れないようにして歩く、とするの普通です。
しかし、ゆっくりではペースが掴めず逆に疲れてしまう人。ゆっくり歩くことに我慢ができずにドンドン先に行ってしまう人。途中でバテてしまってついていけなくなってしまう人等、なかなか団体行動をするのは難しいものです。しかし行動中の基本は離れないことです。予め別行動の計画がある時とか救助を求めるなどの非常事態以外には、絶対に離れて行動することが無いように心がけたいものです。
グループ登山に付いてくる人は、歩くコースを良く知らずに参加する場合が多いですし、コースの下調べも十分ではないことが多いと思います。そのような参加者がグループから離れて、もし登山道を見失った場合、正しい対応がとれるだろうかと考えれば、いやでも「声の届く範囲以上には離れない」ということにせざるをえないと思います。
6月始めの尾瀬でのことですが、同行者とはぐれて道に迷い残雪と雨の中を夜通しさまよっていた2人に偶然遭遇し、山小屋まで送ったことがあります。小屋に着くと既に捜索隊が出ておりましたので、無事を小屋から捜索隊に連絡してもらいました。
その1年後の5月始めですが、同じ尾瀬で、途中疲れたので同行者より1人遅れて行くことにした人が行方不明になり、捜索3日目に登山道から500mほど離れた谷で遺体で発見されたとの報道がありました。
Dストック(杖)は助けになる
登りでも下りでも平地でもストックがあるとバランスをとりながら歩くことができ、ヒザの負担が少なく疲労も抑えられます。特に中高年には大いに助けになる道具です。
ヨーロッパ・アルプス等では両手にストックを持って歩く人を大勢見かけます。その理由は
・ブッシュをかき分けて歩くような登山道が殆ど無く、両手にストックを持って歩いても邪魔にならない。
・片方だけのストックより更にバランスが良くなる。雪渓や氷河の上を歩く場合は2本のストックは必携のようです。
・両手にストックを持つと上半身の運動になり、ザックを担いで歩く時の肩や腕や手のうっ血を防いでくれ、健康にも良い。
等が上げられます。お店には右手・左手用が対になったストックが売られています。
ただ、ストックを使う場合は次のことに注意が要ると思います。
・ストックに頼って体重をかけると返って危険です。ストックはあくまで両足の補助です。
・日本では粘土質が多いので、ストックの先で登山道にあけた穴に雨水がたまり、登山道が壊れる被害が出ているとの話を聞きます。ストックの先にゴムのカバーをつけると有効です。
・3点支持などが必要な急な上りや下りや、クサリ場が続く場所などでは、ストックをザックに固定し、両手を必ずフリーにして歩く必要があります。
|