2.海外の山を上手に歩くには


山歩きで、自分で経験や体験した事、特に年配者に役に立つのではと思うものをまとめてみました。もちろん基本的なことは登山家の解説本などで理解していただくことが前提です。各国別に記載した「山歩き事情」と合わせて見て下さい。


(1)山での歩き方

 長く続く登りも下りも、幾度となく繰り返すアップダウンも、疲れるし苦しいし、何時歩いても嬉しいものではありません。となると、山歩きは嫌な事の連続ということになってしまいますが、山の空気や景色の素晴らしさや木々や草花の姿に接すると、嫌なものでも苦にならなくなるから不思議です。

 しかし楽に歩けたら、それに越したことはありません。そんな歩きが少しでもできたらと、歩き方について私なりに少し書いてみました。国内も海外も山の歩き方に違いはありません。


@登りでは息を切らさない
 ほどほどの年齢になると、息が切れると回復に時間がかかり、疲労困憊、山を楽しむどころではなくなります。息が切れそうと思ったらオーバー・ペースの証拠です。自分のペースを守ることが第一です。
息を切らしてしまうと長い休憩をとるハメになり、体力は消耗するし、時間を大きくロスしてしまいます。先ずは息を切らさないように歩くことです。特に歩き始めの元気な時には、ついつい早く歩いてしまい、気がつくと息が上がっていて後々苦しい歩きになることがあります。
ザックを背負った上半身を前後や左右になるべく揺らさないようにして、同じペースで登ると良いと思います。

A下りは急がない
 下りは足に負担がかかります。関節の潤滑剤が枯れかかった私どもの年齢では、下りでドンドンと突っ走っては致命傷になりかねません。スリップしたり、つまずいて転んで怪我をしやすいのも下りです。下りではできるだけ普通のペースで歩くように心がけ、よそ見をせずに、景色を見るときには立ち止って眺めるようにしたいものです。

Bアップ・ダウンの繰り返しがある時は
 @とAの歩き方をすれば良いわけですが、特に意識したいのは、登りから下りになっても、スピードを速めず、できるだけ登りの速さと変わらない気分で歩くことです。そうすると、下りの時に登りで乱れた呼吸が整えられて疲労も回復します。下りでは決して早く歩かず、速さをセーブして歩くと、次の登りになった時でもスムースに歩くことができ、長丁場のアップ・ダウンがあっても案外平気で歩けます。「下りは次の登りに備えるための歩き」、と心がけると良いと思います。
 
 アルプスでヨーロッパ人のガイド付のトレッキングに加わって歩いたことがありますが、下りでは予想以上にゆっくりと歩くので、登りの歩きが早くてもついて行くことができました。下りの歩き方がいかに重要かをこの時始めて体感しました。
最も、ヨーロッパの人の歩きを見てきた感想としては、日本人に較べて登りは早いが下りは遅いのが一般的で、下りは不得手なのかもしれません。

C団体やグループで歩く時は
歩く早さや体力はそれぞれが違うので、団体で歩く時は注意が要ります。一般的な団体での歩き方は、リーダーなりサブリーダーがトップに立ち、一番弱い人が2番目で、トップは2番目の息づかいを聞き、全体を把握しながら歩きます。ラストからトップの間は声が届く範囲以上には離れないようにして歩く、とするの普通です。

 しかし、ゆっくりではペースが掴めず逆に疲れてしまう人。ゆっくり歩くことに我慢ができずにドンドン先に行ってしまう人。途中でバテてしまってついていけなくなってしまう人等、なかなか団体行動をするのは難しいものです。しかし行動中の基本は離れないことです。予め別行動の計画がある時とか救助を求めるなどの非常事態以外には、絶対に離れて行動することが無いように心がけたいものです。

 グループ登山に付いてくる人は、歩くコースを良く知らずに参加する場合が多いですし、コースの下調べも十分ではないことが多いと思います。そのような参加者がグループから離れて、もし登山道を見失った場合、正しい対応がとれるだろうかと考えれば、いやでも「声の届く範囲以上には離れない」ということにせざるをえないと思います。 
 6月始めの尾瀬でのことですが、同行者とはぐれて道に迷い残雪と雨の中を夜通しさまよっていた2人に偶然遭遇し、山小屋まで送ったことがあります。小屋に着くと既に捜索隊が出ておりましたので、無事を小屋から捜索隊に連絡してもらいました。
その1年後の5月始めですが、同じ尾瀬で、途中疲れたので同行者より1人遅れて行くことにした人が行方不明になり、捜索3日目に登山道から500mほど離れた谷で遺体で発見されたとの報道がありました。

Dストック(杖)は助けになる
 登りでも下りでも平地でもストックがあるとバランスをとりながら歩くことができ、ヒザの負担が少なく疲労も抑えられます。特に中高年には大いに助けになる道具です。

ヨーロッパ・アルプス等では両手にストックを持って歩く人を大勢見かけます。その理由は
 ・ブッシュをかき分けて歩くような登山道が殆ど無く、両手にストックを持って歩いても邪魔にならない。
 ・片方だけのストックより更にバランスが良くなる。雪渓や氷河の上を歩く場合は2本のストックは必携のようです。
 ・両手にストックを持つと上半身の運動になり、ザックを担いで歩く時の肩や腕や手のうっ血を防いでくれ、健康にも良い。
等が上げられます。お店には右手・左手用が対になったストックが売られています。

ただ、ストックを使う場合は次のことに注意が要ると思います。
 ・ストックに頼って体重をかけると返って危険です。ストックはあくまで両足の補助です。
 ・日本では粘土質が多いので、ストックの先で登山道にあけた穴に雨水がたまり、登山道が壊れる被害が出ているとの話を聞きます。ストックの先にゴムのカバーをつけると有効です。
 ・3点支持などが必要な急な上りや下りや、クサリ場が続く場所などでは、ストックをザックに固定し、両手を必ずフリーにして歩く必要があります。


(2)海外山歩きの持ち物
 
 「食料」などその国特有のものは、各国の「山歩き事情」に記載しております。


@海外の山歩きに持っていく物・アラカルト

 北米や南米へ行く場合、手荷物の重量はエコノミー・クラスでも30kgまでOKですが、それ以外の地域へは20kgに制限されています。運がよければチェックインでまけてくれる時もありますが、重量オーバーと判定されると、とんでもないお金を払うハメになりますので、やはり決められた手荷物重量に抑えて行動するのが安心です。帰りにお土産を買う場合には、行きの重量に余裕を持たせないといけません。

 必要な山の装備は山歩きの内容によって自ずと決まってしまうので迷う事は少ないと思いますが、衣類等をどの程度持って行ったら良いかなどはちょっと悩むところです。沢山持っていっても結局使わずに持ち帰るのでは移動に負担がかかるだけです。


・衣類

 私の場合、過去、山小屋泊まりも含めて20日間から30日間程度海外の山に行っておりますが、この期間に持って行く山歩きの衣類は、ズボンや下着や上着やソックスを各3セットと決めています。その理由は、山小屋泊まりでは雨に濡れた時の着替えとして必ず予備1セットをザックに入れていくので、着ていくものと合わせ2セットが必要です。その他に、洗濯が間に合わず着るものが無くなってしまった場合などのことを考えて、もう1セット持って行くことにしているわけです。
 ズボンは3セットの内、ショートパンツを1つ持っていくと極端に寒い日でなければ快適に歩けます。海外の山は一般的にブッシュをかき分けて歩くことは殆ど無いので、葉や枝で怪我をする恐れは殆どありません。ただ、ショートパンツの時は、足に満遍なく日焼け止めを塗っておかないと日頃陽に当たらない場所なのでひどい日焼けになりますから注意が必要です。
山小屋泊まりを含まない日帰りハイキングのみの海外山歩きであれば、山の衣類は2セット持って行けば十分と思います。町で着る衣類は高級ホテルや高級レストランに出向く事がなければ普段着1セットで山の衣類と組み合わせながらで間に合います。

・履物
 
登山靴は軽登山靴。飛行機の往き帰りとも荷物にならないように登山靴を履いて乗っています。検査で靴を脱がされることが多いのですが手荷物重量を少なくするためには我慢です。他には普段の歩きにウォーキングシューズ、部屋履きや飛行機の中で履く布スリッパ、それに山小屋で履くサンダル持っていっています。
もし高級レストランや高級ホテルに行く計画があるならば、履物を含めてそれなりの身なりが必要です。

・寝袋

 
山小屋やユースホステルやコンドミニアムに泊まるときには、スリーシーズンのコンパクトな寝袋を持っていくことにしています。これらの宿泊所のベッドは大抵マットレス付で寝心地が良いのですが、山小屋は寝袋が必要ですし、毛布がある所でも寝袋にもぐった方が安心できるし気持ちよく寝られるように思っているので、寝袋を必ず持っていっています。

・風呂用ナイロンタオル
 山から帰り、宿泊所でバスやシャワーで身体を洗う気持ちの良さは格別ですが、備え付のタオルや持っていった布タオルで身体を洗うのは、私の場合洗った気がしないので、風呂用ナイロンタオルを必ず持って行き、思い切り泡立てて身体を洗う事にしています。

・物干し用ひも
 ランドリー設備の無い所に泊まって部屋で洗って干す場合や、ちょっとした物を洗って干す場合に、ひもがあると便利です。私の場合は10m〜20mほどの長い靴ひもを持っていっています。細くて丈夫で、もし靴ひもが切れたら切って使えます。山の店で切り売りで買うことができます。

・地図
日本で現地の山歩きコースの地図を購入するのは難しいのですが、各国ともインターネットで見られる地図のサイトがあります。日本で調べる時や現地で地図を買う暇が無かった時などにコピーをしておくと役に立ちます。サイトのアドレスは各国の「山歩き事情」に掲載してありますので参考にして下さい。

もう1つ、Google Earth という武器があります。世界中の平面写真や360度違った角度からの3次元映像を見ることができ、ポイントでその場所の標高が分かり、住所をインプットすればその場所を正確に知ることができます。山の下調べや泊まる宿の所在地把握など利用範囲は多岐に渡ります。
無料ですが次のHPから利用規約に同意するなどのインストールをする必要があります。
 Google Earth Homeを開いて左上のダウンロードをクリックすると簡単に手続きができ、即見ることができるようになります。

・高度計付腕時計
 腕時計は必携ですが、高度計付腕時計は有れば便利というものです。最近は値段も大分下がって買い易くなってきています。高度計は低気圧か高気圧かで差が出ますが私の持っているものでは、数十メーターの誤差範囲で収まっているように思います。高度を知ることにより地図のトレイルのどの辺りにいるかの助けになります。但しアップダウウンを何度も繰り返す地形やダラダラと高低差の無いところを歩くときには役立ちません。あくまで地図で現在地を把握しながら歩くのが基本で、その補助に使えると考えるべきです。
 便利なのは電波時計になっていて時刻は正確ですし各国の電波に対応して時刻が表示され、日本の時間も同時に分かります。太陽電池になっていてバッテリーの交換は不要で、充電不足で停まってしまうといった不具合は今迄の所起こっていません。


A持ち物の使い方・アラカルト

・ザックの中身はビニール袋に入れる
 雨でもザックカバーをしていればザックの中は濡れないかというと、そうではありません。雨が長く続くと背中の部分からザックの中に浸み込んできて、ザックの中は水浸しということも起こります。ザックの中身は小分けにして手近にあるビニール袋に入れてパッキングするのが安全です。破れる恐れがあるときには二重にすればより確実です。
 さまざまな布製の防水袋(スタッフバック)が売られておりますが何度か使うと防水性が失われてしまって大失敗ということもありますので、これもビニール袋で二重に包んでおくと安心です。
 ザックの中身は雨具や食器以外は濡れたら困るものばかりですので濡れない工夫が非常に大切です。

・濡れた時には必ず着替える、そして翌朝は?
 小屋どまりを何日か続ける場合の着替えです。雨に濡れて山小屋に着いたら体が冷える前に乾いた予備の衣類に着替えましょう。濡れた衣類や靴はできるだけ乾き易い所に干します。山小屋にストーブがあれば助かりますが、乾燥する熱源の無い小屋でも、部屋につるしておけば幾分なりとも乾いてましになります。
 そして、翌日の朝食後には、昨日雨に濡れた衣類に再び着替えます。例え乾かずに濡れていても着替えます。着ていた予備の衣類はザックに戻します。濡れていると冷たくて気持ち悪いですが歩き出せば気にならなくなります。もしまた雨に合い予備の衣類も濡れてしまって着替える服がなくなってしまうと大変です。濡れたまま夜を過すのでは寒くて寝られないばかりか、状況によっては身体を壊したり体力を消耗してしまう恐れがあります。

・スパッツ(ゲイター、ゲートル)
 ブッシュやぬかるみの多いトレイルや、雨の日や、雪渓や砂礫の上を歩く時などにスパッツ(英語ではGaiters)を着けると靴の中に異物が入るのを防いでくれます。スパッツにはショート・タイプとロング・タイプがありますが、ズボンの保護にもなるロング・タイプの方が良いと思います。小川を石伝いに渡る時にあやまって一瞬ジャボンと水にはまってもロングスパッツをつけていると意外と靴に水が入りませんしズボンも濡れずにすみます。
 
 「雨の日はズボンの上にスパッツを履くとズボンから雨が伝わり靴の中に水が入ってしまうので、スパッツはズボンの下に履くのが正しい」と書かれた解説本を読んだことがあります。雨具のズボンの上からスパッツを履くと、確かに水が靴の中に伝わって入り易いので、雨具のズボンを履いた場合はその下にスパッツを履くのが正解と思います。ただ、この場合は雨具のズボンの裾がこすれて擦り切れることがあります。
雨具のズボンを履かず、通常のズボンであれば、ズボンの上からスパッツを履くのが正解と思います。
 海外ではショートパンツ姿にスパッツを着けて歩いている人を良く見かけます。2008年にニュージーランドに行った時、火山灰地を歩くのにショートパンツを履きロングスパッツを着けてみました。スネとフクラハギに直接スパッツが当たるので、少し違和感がありましたが直ぐ慣れて、涼しくてなかなか快適でした。

・飲料水  
 歩く日数分のスポーツ飲料粉末を日本から持って行き水筒に溶かして使用しています。身体に良いのかどうかはその実感がないのでよく分かりませんが、水が飲みやすくなるのが良いと思っています。疲れてくると水がすんなりと喉を通らなくなる感じに私はなるのですが、スポーツ飲料だとスーッと飲めて水の補給がしっかり取れたという気分になれます。
 水筒以外に、500ccの魔法瓶(サーモス、テルモス)を持っていってます。家内は紅茶を私はコーヒーを入れてます。多少荷物にはなりますが、熱い飲み物は疲労感を和らげてくれる気分になれますし、昼食が喉を通らない時の助けにもなります。朝食を提供してくれる山小屋やホテルなら頼めば必ず熱湯を魔法瓶に入れてくれますので、直ぐ紅茶やコーヒーがつくれます。





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